SF初心者が読んで面白かったSF小説とか

SF小説そんなに読んでないけど、SFが好きなのは確か。
せめて読んだSFのどんなところが好きか書いて、SF読もうかなと言う人にへえ~と思ってもらおう……という記事です。
SFが好きです。

 

田中芳樹銀河英雄伝説

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銀河英雄伝説ファンの友人に数年のあいだたびたび勧められてやっと読んだ小説。膨大なファンを抱えるシリーズですが、膨大なファンが付くのには理由があるんですね。とても面白いです。
地球を後にし、旧弊な伝統を重んじる銀河帝国と、かつてその圧政から活路を見出した開拓者たちの築いた自由惑星同盟という二つの政体に分かれた人々の戦いの物語。最良の独裁政治と、最悪の民主政治のどちらを人類は支持するのか、そういった問いかけがあったり、宇宙空間で艦隊を用いて戦う戦術・戦略の話であったり、魅力的な登場人物の関係性の物語であったり……本編が文庫10冊、外伝が文庫5冊。多いなと思うかもしれませんが、読み出すとあっという間です。
登場人物も多いですが、読んでいるうちに覚えられますし、なんとなく読み飛ばしていた脇役が、読了後二周目に入ると、あっこの人こんなシーンからもう控えていたのね! という楽しみ方もできます。とにかく面白い……
私はアニメから入りましたが、続きが気になりすぎて原作を手に取りました。メルカッツが好きです。おわかりください。あとヤン・ウェンリーが好きです。読んでいただければ、おわかりいただけると思います。そしてヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが好きです。銀河英雄伝説が好き……。

 

飛浩隆「グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ」

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仮想世界にかたちづくられた海岸の物語です。リゾート地として訪れていた人間の訪いが絶え、1000年が経ったそこでは、AIたちが永遠に繰り返される夏を過ごしていたが、ある日その空間の崩壊が始まって……というストーリー。
とにかく文章が繊細でうつくしくて好きです。物語がどこへ向かうのか、描かれている世界には何が隠されているのか、はらはらしながら読み進めるうちに、この爽やかで美しい世界には、とても痛く脆い秘密が存在していることに気づきます。世界観がとにかく好き。でも読んでいるとつらくてかなりひりつきます。美しい夏とその結末を読みたい人におすすめ。

 

月村了衛「機龍警察」

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恐らくは少し先の未来、警視庁特捜部が導入した龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる近接戦闘のための兵装の搭乗要員として選ばれた3人の傭兵たちを主軸とした物語。緻密で鮮やかな戦闘描写がとにかく熱く、登場人物たちの抱える苦々しさ、絶望、一筋の希望、シリーズに通底する謎といったようなものの散りばめ方が読んでいて最高に楽しい。
姿俊之、ユーリ・オズノフ、ライザ・ラードナーら3人の傭兵たちの過去(一部はまだ明らかでない)と現在の在り方にはすーっごく心に来るものがあり、それにさらに重ねて警視庁特捜部と言う警察の中でも疎まれる特殊な部署に集ったメンバーの渋さ、明るさ、救いのなさ、迷いなどなど入り混じる群像劇がめちゃくちゃ良い。莫大な予算で映像化してほしい。
特に好きな機龍警察は、自爆条項と火宅の勤行です。おわかりください。

 

谷甲州「星は、昴」

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宇宙を描く短編集です。表題作に登場する二人の研究者の、遠く離れた宇宙空間を繋ぐ通信の記録を読んでいただきたい。「フライデイ」の突拍子の無さも好き。
面白みと切なさのバランスが良く、全体的に語り口と発想がとても面白いです。

 

伊藤計劃虐殺器官」「ハーモニー」「The Indifference Engine

SFってたのしいね。伊藤計劃はやわらかな語り口とするすると読ませる文章、興味をぐっとつかまえるストーリーで「SFを読む」ことへのハードルをものすごく下げてくれた小説家であると思います。
書いている内容はけしてやわらかなものではないし、硬くしようと思えばいくらでもできるテーマであると思うのですが、とにかく読みやすいと感じます。今もぱらっとめくったらどんどんページを進めてしまい出てこれなくなりそうになった。

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虐殺器官」は、9.11テロ以降の米軍に所属する主人公が、「虐殺の文法」なるものを研究し各地の内戦を激化させているらしい人物を追うというもの。

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「ハーモニー」は完全に近い福祉厚生社会を築き上げた人類のユートピアにおいて、かつて餓死を試みた少女たちの至った未来の物語。
どちらもアニメーション映画になっているので、そちらから観てもよし、小説から読んでもよしだと思います。私は小説から読みました。ハーモニーは<etml>というタグの記述が効果的に用いられているので、小説で読むと没入感があるかもしれない。

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The Indifference Engine」は短編集です。この中の「From the Nothing, With Love」という007シリーズへのオマージュ短編が大好きなのです。
「ロシアより愛を込めて」という映画タイトルからとって、「『無』から愛を込めて」としたこの短編は、俳優を交代させながら撮り続けられる007シリーズをSF的に解釈したもの……であると読んでいます。この話の「意識」についての語り口がぞくぞくしてとても好き。超おすすめです。
個人的に、007の映画の「スカイフォール」はジェームズ・ボンドの老いを思わせる内容だったので、このときボンドを演じているダニエル・クレイグ主演の「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」「スカイフォール」と合わせて読んでもらえると私が嬉しい。

 

上田早夕里「華竜の宮」

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25世紀の地球、海面が上昇した世界で人類は陸上民と海上民に分かれてそれぞれの社会を築いていた。そんな世界観の中、日本の外交官として交渉を生業とする青澄誠司をサポートする知性体アシスタント・マキの視点で物語が描かれます。
もうこの知性体アシスタントの人間たちへのまなざしが本当に好き。登場人物たちも魅力的だし、けしてやさしいだけではない世界の変容に立ち向かう物語、大好きです。最善を尽くそうとするひたむきさに心を傾けたい人におすすめ。
映像とのペアリング(マリアージュ?)を楽しむなら、シン・ゴジラとか翠星のガルガンティアとかと合わせるとハッピーかもです。

 

フィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか?

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有名! ですよね、一度は耳にしたことのあるタイトルだと思います。そのため読んでおくと満足感が高い。アンドロイドへ思索を寄せる多くのSFのオマージュ元になっている作品でもあり、基礎(この作品)を知っておくと応用(この作品に影響された数多の作品)を読んだときの「これは!」という思考回路のつながりの楽しみを味わえる気がします。
そして純粋に面白い。近未来の世界にはこういうものが存在するだろうというさまざまな仮説の描かれ方が楽しいです。ちなみにPSYCHO-PASSの槙島さんもフィリップ・K・ディックの小説について言及しています。私は実はPKD(フィリップ・K・ディックの略)はこの作品しか読んでいないので他のも読みたいです。おすすめしてほしい。
あ、あと!!! この作品は「ブレードランナー」という名前で映画化していて、それも超おすすめです。古い映画ですが、映像作品としてすごく評価が高くて、観ておくとこういう世界がかつて思い描かれたんだなあと思える……そして最近「ブレードランナー2049」という続編も制作されています。こちらも映像が大好きなので観てほしい……孤独の描き方がとても好きです。

 

伊藤計劃×円城塔屍者の帝国

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屍体に霊素を上書きすることで屍者を起こし、労働力として使役できるようになった世界で、医学生のワトソンが大英帝国のスパイとして世界を飛び回るという物語(このワトソンは、ホームズの相棒のワトソンのIFです!)
もうこれだけで面白そうなんですよね。登場人物たちも、さまざまな文学作品に登場したあの人やこの人で、キャラ配置が神がかっています。
虐殺機関やハーモニーに同じくアニメーション映画になっており、そちらから入るのもいいかも。関係性、かなり強めです。

 

マーサ・ウェルズ「マーダーボット・ダイアリー」

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文庫2冊、上下巻です。自分自身をハッキングしたことで自由意思を得た人型警備ユニットの独白で描かれる物語。一人称が「弊機」なんですよ。「弊機はひどい欠陥品です」って独白したりする。面白くないですか?
自由意思を得たことで殺人ボット=マーダーボットになる可能性もあったようですが、この弊機は連続ドラマの視聴にハマってしまうんですね……その結果、保険会社に所有される警備ユニットとしての仕事に勤しみつつ、ドラマを楽しみ日々を過ごしていたものの……と波瀾に巻き込まれていく感じなんですが、とにかくこの一人称での描写がくすくす笑えて楽しい。先に挙げた「華竜の宮」のアシスタント知性体の語り口とはまた違ったおかしみがあって良いです。

 

森博嗣「彼女は一人で歩くのか?」から始まるWシリーズ

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文庫10冊。ウォーカロンと呼ばれる人工細胞で作られた生命体にまつわる物語。人間と識別するのが困難なほどの存在であるウォーカロンですが、その識別を可能にする方法を編み出そうとしている研究者ハギリが命を狙われたことから物語は始まります。
近しいものがあることで、人間とは、人間性とは何かという問いが浮かび上がってくるのが面白いです。人が長命になり、子どもが生まれなくなった世界でいまだに子どもが生まれている地域、国際法により禁じられているクローンの受胎、初めて人間を殺した人工知能等々、読み進めるほどに思索の深まるシリーズで、しかも刊行スピードが! 速い! このWシリーズは10冊で完結し、もう続編のシリーズであるWWシリーズも数冊出ています(私はまだ追いつけていない)。
森先生のスマートな文体と思考で描かれる近未来、読んでいてワクワクする展開、どれをとっても楽しいのでおすすめです。ちなみにウォーカロンの登場する小説は「女王の百年密室」という1冊もありまして、そちらもミステリでもありバディものでもあり、おすすめです。森博嗣先生の作品は「すべてがFになる」にはじまる犀川&萌絵シリーズもSFって言ってもいいような気がしますね……ミステリとしてももちろん面白いシリーズです!

 

息切れしてきたのであとは短くいきます。

森見登美彦ペンギン・ハイウェイ

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小学4年生のかしこい「ぼく」が住む郊外の街にペンギンの群れが現れ、学校の裏山には「海」が現れる。それを研究することにした「ぼく」と不思議なお姉さんの、ある夏の物語。
※映画も超良いです。おすすめ。

 

恩田陸「ねじの回転」

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時間遡行装置を生み出し、過去に介入したことによって絶滅の危機を招いた人類。その危機を回避するために、介入した過去への修復を開始するが、その修復ポイントのうちのひとつが東京、二・二六事件で……というお話。変えてしまった過去を歴史上の人物に「正しく」再生させるというのは、突然ですが刀剣乱舞をご存知の方には、ピンとくるものがあるのではないでしょうか、とても胸にくる話です。

 

ある程度紹介できる記憶と語彙が何とかなったものは、ここまでに書きましたが、そのほかの作品はとりあえず箇条書きしておきます。

読んだのが結構前で紹介するには記憶が怪しいけど面白かったSF

飛浩隆「自生の夢」
上田早夕里「夢見る葦笛」

 

最近読んで面白かったSF

宮内悠介「ヨハネスブルグの天使たち」
凪良ゆう「神さまのビオトープ」※ファンタジーか? と自分の中で審議中
吉田真百合「ライカの星」※コミックス

 

いま読んでるSF

ケン・リュウ「紙の動物園」
(とりあえず二編読んだけどやさしい言葉で身を切るようなお話が語られて泣きそうになっている。好きです)

 

積んでおり楽しみなSF

呉明益「複眼人」
アイザック・アシモフ鋼鉄都市
フレドリック・ブラウン「天の光はすべて星」
劉慈欣「三体」
飛浩隆「ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ」
銀河英雄伝説列伝」
伴名練「なめらかな世界と、その敵」
飛浩隆「ポリフォニック・イリュージョン」

※早く読みます

 

以上です! ここまで御目通しいただいた方はお疲れさまでした。長々と好きなように語れて楽しかったです。再読したい本も増えました……ああ……
おすすめのSFがあったらぜひ教えてください。よろしくお願いします~