SF初心者が読んで面白かったSF小説とか
SF小説そんなに読んでないけど、SFが好きなのは確か。
せめて読んだSFのどんなところが好きか書いて、SF読もうかなと言う人にへえ~と思ってもらおう……という記事です。
SFが好きです。
田中芳樹「銀河英雄伝説」
銀河英雄伝説ファンの友人に数年のあいだたびたび勧められてやっと読んだ小説。膨大なファンを抱えるシリーズですが、膨大なファンが付くのには理由があるんですね。とても面白いです。
地球を後にし、旧弊な伝統を重んじる銀河帝国と、かつてその圧政から活路を見出した開拓者たちの築いた自由惑星同盟という二つの政体に分かれた人々の戦いの物語。最良の独裁政治と、最悪の民主政治のどちらを人類は支持するのか、そういった問いかけがあったり、宇宙空間で艦隊を用いて戦う戦術・戦略の話であったり、魅力的な登場人物の関係性の物語であったり……本編が文庫10冊、外伝が文庫5冊。多いなと思うかもしれませんが、読み出すとあっという間です。
登場人物も多いですが、読んでいるうちに覚えられますし、なんとなく読み飛ばしていた脇役が、読了後二周目に入ると、あっこの人こんなシーンからもう控えていたのね! という楽しみ方もできます。とにかく面白い……
私はアニメから入りましたが、続きが気になりすぎて原作を手に取りました。メルカッツが好きです。おわかりください。あとヤン・ウェンリーが好きです。読んでいただければ、おわかりいただけると思います。そしてヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが好きです。銀河英雄伝説が好き……。
飛浩隆「グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ」
仮想世界にかたちづくられた海岸の物語です。リゾート地として訪れていた人間の訪いが絶え、1000年が経ったそこでは、AIたちが永遠に繰り返される夏を過ごしていたが、ある日その空間の崩壊が始まって……というストーリー。
とにかく文章が繊細でうつくしくて好きです。物語がどこへ向かうのか、描かれている世界には何が隠されているのか、はらはらしながら読み進めるうちに、この爽やかで美しい世界には、とても痛く脆い秘密が存在していることに気づきます。世界観がとにかく好き。でも読んでいるとつらくてかなりひりつきます。美しい夏とその結末を読みたい人におすすめ。
月村了衛「機龍警察」
恐らくは少し先の未来、警視庁特捜部が導入した龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる近接戦闘のための兵装の搭乗要員として選ばれた3人の傭兵たちを主軸とした物語。緻密で鮮やかな戦闘描写がとにかく熱く、登場人物たちの抱える苦々しさ、絶望、一筋の希望、シリーズに通底する謎といったようなものの散りばめ方が読んでいて最高に楽しい。
姿俊之、ユーリ・オズノフ、ライザ・ラードナーら3人の傭兵たちの過去(一部はまだ明らかでない)と現在の在り方にはすーっごく心に来るものがあり、それにさらに重ねて警視庁特捜部と言う警察の中でも疎まれる特殊な部署に集ったメンバーの渋さ、明るさ、救いのなさ、迷いなどなど入り混じる群像劇がめちゃくちゃ良い。莫大な予算で映像化してほしい。
特に好きな機龍警察は、自爆条項と火宅の勤行です。おわかりください。
谷甲州「星は、昴」
宇宙を描く短編集です。表題作に登場する二人の研究者の、遠く離れた宇宙空間を繋ぐ通信の記録を読んでいただきたい。「フライデイ」の突拍子の無さも好き。
面白みと切なさのバランスが良く、全体的に語り口と発想がとても面白いです。
伊藤計劃「虐殺器官」「ハーモニー」「The Indifference Engine」
SFってたのしいね。伊藤計劃はやわらかな語り口とするすると読ませる文章、興味をぐっとつかまえるストーリーで「SFを読む」ことへのハードルをものすごく下げてくれた小説家であると思います。
書いている内容はけしてやわらかなものではないし、硬くしようと思えばいくらでもできるテーマであると思うのですが、とにかく読みやすいと感じます。今もぱらっとめくったらどんどんページを進めてしまい出てこれなくなりそうになった。
「虐殺器官」は、9.11テロ以降の米軍に所属する主人公が、「虐殺の文法」なるものを研究し各地の内戦を激化させているらしい人物を追うというもの。
「ハーモニー」は完全に近い福祉厚生社会を築き上げた人類のユートピアにおいて、かつて餓死を試みた少女たちの至った未来の物語。
どちらもアニメーション映画になっているので、そちらから観てもよし、小説から読んでもよしだと思います。私は小説から読みました。ハーモニーは<etml>というタグの記述が効果的に用いられているので、小説で読むと没入感があるかもしれない。
「The Indifference Engine」は短編集です。この中の「From the Nothing, With Love」という007シリーズへのオマージュ短編が大好きなのです。
「ロシアより愛を込めて」という映画タイトルからとって、「『無』から愛を込めて」としたこの短編は、俳優を交代させながら撮り続けられる007シリーズをSF的に解釈したもの……であると読んでいます。この話の「意識」についての語り口がぞくぞくしてとても好き。超おすすめです。
個人的に、007の映画の「スカイフォール」はジェームズ・ボンドの老いを思わせる内容だったので、このときボンドを演じているダニエル・クレイグ主演の「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」「スカイフォール」と合わせて読んでもらえると私が嬉しい。
上田早夕里「華竜の宮」
25世紀の地球、海面が上昇した世界で人類は陸上民と海上民に分かれてそれぞれの社会を築いていた。そんな世界観の中、日本の外交官として交渉を生業とする青澄誠司をサポートする知性体アシスタント・マキの視点で物語が描かれます。
もうこの知性体アシスタントの人間たちへのまなざしが本当に好き。登場人物たちも魅力的だし、けしてやさしいだけではない世界の変容に立ち向かう物語、大好きです。最善を尽くそうとするひたむきさに心を傾けたい人におすすめ。
映像とのペアリング(マリアージュ?)を楽しむなら、シン・ゴジラとか翠星のガルガンティアとかと合わせるとハッピーかもです。
フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
有名! ですよね、一度は耳にしたことのあるタイトルだと思います。そのため読んでおくと満足感が高い。アンドロイドへ思索を寄せる多くのSFのオマージュ元になっている作品でもあり、基礎(この作品)を知っておくと応用(この作品に影響された数多の作品)を読んだときの「これは!」という思考回路のつながりの楽しみを味わえる気がします。
そして純粋に面白い。近未来の世界にはこういうものが存在するだろうというさまざまな仮説の描かれ方が楽しいです。ちなみにPSYCHO-PASSの槙島さんもフィリップ・K・ディックの小説について言及しています。私は実はPKD(フィリップ・K・ディックの略)はこの作品しか読んでいないので他のも読みたいです。おすすめしてほしい。
あ、あと!!! この作品は「ブレードランナー」という名前で映画化していて、それも超おすすめです。古い映画ですが、映像作品としてすごく評価が高くて、観ておくとこういう世界がかつて思い描かれたんだなあと思える……そして最近「ブレードランナー2049」という続編も制作されています。こちらも映像が大好きなので観てほしい……孤独の描き方がとても好きです。
伊藤計劃×円城塔「屍者の帝国」
屍体に霊素を上書きすることで屍者を起こし、労働力として使役できるようになった世界で、医学生のワトソンが大英帝国のスパイとして世界を飛び回るという物語(このワトソンは、ホームズの相棒のワトソンのIFです!)
もうこれだけで面白そうなんですよね。登場人物たちも、さまざまな文学作品に登場したあの人やこの人で、キャラ配置が神がかっています。
虐殺機関やハーモニーに同じくアニメーション映画になっており、そちらから入るのもいいかも。関係性、かなり強めです。
マーサ・ウェルズ「マーダーボット・ダイアリー」
文庫2冊、上下巻です。自分自身をハッキングしたことで自由意思を得た人型警備ユニットの独白で描かれる物語。一人称が「弊機」なんですよ。「弊機はひどい欠陥品です」って独白したりする。面白くないですか?
自由意思を得たことで殺人ボット=マーダーボットになる可能性もあったようですが、この弊機は連続ドラマの視聴にハマってしまうんですね……その結果、保険会社に所有される警備ユニットとしての仕事に勤しみつつ、ドラマを楽しみ日々を過ごしていたものの……と波瀾に巻き込まれていく感じなんですが、とにかくこの一人称での描写がくすくす笑えて楽しい。先に挙げた「華竜の宮」のアシスタント知性体の語り口とはまた違ったおかしみがあって良いです。
森博嗣「彼女は一人で歩くのか?」から始まるWシリーズ
文庫10冊。ウォーカロンと呼ばれる人工細胞で作られた生命体にまつわる物語。人間と識別するのが困難なほどの存在であるウォーカロンですが、その識別を可能にする方法を編み出そうとしている研究者ハギリが命を狙われたことから物語は始まります。
近しいものがあることで、人間とは、人間性とは何かという問いが浮かび上がってくるのが面白いです。人が長命になり、子どもが生まれなくなった世界でいまだに子どもが生まれている地域、国際法により禁じられているクローンの受胎、初めて人間を殺した人工知能等々、読み進めるほどに思索の深まるシリーズで、しかも刊行スピードが! 速い! このWシリーズは10冊で完結し、もう続編のシリーズであるWWシリーズも数冊出ています(私はまだ追いつけていない)。
森先生のスマートな文体と思考で描かれる近未来、読んでいてワクワクする展開、どれをとっても楽しいのでおすすめです。ちなみにウォーカロンの登場する小説は「女王の百年密室」という1冊もありまして、そちらもミステリでもありバディものでもあり、おすすめです。森博嗣先生の作品は「すべてがFになる」にはじまる犀川&萌絵シリーズもSFって言ってもいいような気がしますね……ミステリとしてももちろん面白いシリーズです!
息切れしてきたのであとは短くいきます。
森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」
小学4年生のかしこい「ぼく」が住む郊外の街にペンギンの群れが現れ、学校の裏山には「海」が現れる。それを研究することにした「ぼく」と不思議なお姉さんの、ある夏の物語。
※映画も超良いです。おすすめ。
恩田陸「ねじの回転」
時間遡行装置を生み出し、過去に介入したことによって絶滅の危機を招いた人類。その危機を回避するために、介入した過去への修復を開始するが、その修復ポイントのうちのひとつが東京、二・二六事件で……というお話。変えてしまった過去を歴史上の人物に「正しく」再生させるというのは、突然ですが刀剣乱舞をご存知の方には、ピンとくるものがあるのではないでしょうか、とても胸にくる話です。
ある程度紹介できる記憶と語彙が何とかなったものは、ここまでに書きましたが、そのほかの作品はとりあえず箇条書きしておきます。
読んだのが結構前で紹介するには記憶が怪しいけど面白かったSF
飛浩隆「自生の夢」
上田早夕里「夢見る葦笛」
最近読んで面白かったSF
宮内悠介「ヨハネスブルグの天使たち」
凪良ゆう「神さまのビオトープ」※ファンタジーか? と自分の中で審議中
吉田真百合「ライカの星」※コミックス
いま読んでるSF
ケン・リュウ「紙の動物園」
(とりあえず二編読んだけどやさしい言葉で身を切るようなお話が語られて泣きそうになっている。好きです)
積んでおり楽しみなSF
呉明益「複眼人」
アイザック・アシモフ「鋼鉄都市」
フレドリック・ブラウン「天の光はすべて星」
劉慈欣「三体」
飛浩隆「ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ」
「銀河英雄伝説列伝」
伴名練「なめらかな世界と、その敵」
飛浩隆「ポリフォニック・イリュージョン」
※早く読みます
以上です! ここまで御目通しいただいた方はお疲れさまでした。長々と好きなように語れて楽しかったです。再読したい本も増えました……ああ……
おすすめのSFがあったらぜひ教えてください。よろしくお願いします~
小説同人誌をつくるのはたのしい!(文庫・A5・正方形など)
二次創作が好きです。こんにちは。
前回は文庫サイズや新書サイズを推す記事を書きましたが、
その後また新しく何冊か出す機会に恵まれましたので、第2弾を書くことにしました。
2018年、2019年に出した5冊の本の話をします。
1冊目。文庫サイズです! やったー!
頒布価格600円/64ページ/文字数19,469字/フォントサイズ8pt(IPAex明朝)/1ページ44文字×16行
表紙は以前に出した同じカプの本とおそろいです。うれしい。
2冊目。正方形の本です。本文2色刷りがやりたくて、データをがんばって作りました。
頒布価格800円/64ページ/文字数27,873字/フォントサイズ9pt(筑紫アンティークL明朝)/1ページ35文字×22行
3冊目。アンソロジーです。実はコピ本以外ではじめてA5の本をつくりました。
フォントサイズ8.5pt(IWAp明朝オールドPlus)/1ページ29文字×22行×2段
4冊目。これも正方形の本です。2冊目よりは一回り小さい。
頒布価格700円/80ページ/文字数27,736字/フォントサイズ9pt(筑紫アンティークL明朝)/1ページ33文字×19行
5冊目。これは新書サイズで本文横書き、そして左綴じの本です。携帯サイト再録本ということで少し変わり種。
頒布価格2000円/386ページ/文字数219,859字/フォントサイズ9pt(IPAex明朝)/1ページ25文字×32行
ということで、文庫以外にもいろんなサイズの本を作っています。楽しいです。
IPAex明朝は少しかちっとした文庫のとき、IWAp明朝オールド(イワタ明朝オールド)はきれいめな感じの小説感を出したいときに使っています。今後文庫を出すとして、ポイント数は8.5ptに落ち着きそうな気持ち。
筑紫アンティークL明朝は、本来本文用のフォントではない(見出し用らしい)のですが、アンティーク感というか、ちょっといい児童書のような雰囲気(?)が好きでついつい使ってしまいます。
お願いした印刷会社さんは次のとおりです。いつもお世話になっているプリントキングさん。憧れの2色刷りに挑戦させてもらったレトロ印刷さん。箔のバリエーションに絶大な信頼のあるスターブックスさん。誠にありがとうございました。
・同人誌印刷通販【プリントキング】さん 1、3、4冊目
・レトロ印刷さん 2冊目
・STARBOOKSさん 5冊目
ということで、小説同人誌たのしい記録第2段でした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
なお、文庫と新書にフィーチャーした第1弾はこちら。
あと、詳しいページ設定や、表紙のメイキング、二次創作をするときにふんわり思っていること、アンソロ主催の記録などの記事もあるので、よかったらどうぞ。
文庫サイズの小説同人誌ってどんな感じ?
文庫サイズの小説同人誌ってこんな感じ!
文庫サイズとか、新書サイズの小説同人誌をつくるのが好きです。こんばんは。
タイトルで文庫サイズと言いながらいきなりぶれました。このあとは主に文庫サイズの話をします。
文庫サイズって実際どうなの? というところからいきますが、自室で本棚にさしたときの満足感が半端ないです。
あと、好きな文庫の中表紙の感じとか、目次の感じとかを再現していくととても楽しいです。
文庫サイズを選ぶのは、私の場合は単に文庫サイズが好きだからです。
もちろん印刷代とか、文字数に対する頒布価格のコスパとかを考えると、A5サイズが優れているに決まっているのですが、文庫サイズが好きだから文庫サイズでつくります。そういう記事です。
文庫サイズのページ数・文字数についての雑感
今までにつくった文庫サイズの小説同人誌は3冊です(コピー本除く)。
1冊目
頒布価格600円/本文60ページ/文字数18577字/フォントサイズ8pt(IPAex明朝)/1ページ42文字×16行
2冊目
頒布価格1000円/本文164ページ/文字数64536字/フォントサイズ8pt(IWAp明朝オールド)/1ページ42文字×16行
3冊目
頒布価格1200円/本文134ページ/文字数55532字/フォントサイズ9pt(IWAp明朝オールド)/1ページ35文字×17行
1・2冊目は原作が小説のジャンルなのでフォントサイズ小さめ、3冊目はゲームのジャンルなのでフォントサイズ大きめにしましたが、今見比べると小さすぎ&大きすぎな気がするので次つくるなら8.5ptくらいにしたいです。
1・2冊目は小説本セット|印刷通販プリントキング
プリントキングさんの小説本セット(帯無し・カバー付)。
3冊目はSTARBOOKS オンデマンドノベルズ
スターブックスさんのオンデマンドノベルズ(カバー付・箔押し)。
2と3冊目でページ数に対して頒布価格の逆転が起きてるのは箔押しの分です。仕方のないことなんですが若干申し訳なさがあったので、推しイベお疲れさまでした割引としてランボカード呈示で割引にしたりもしました。結構呈示してくださって楽しかったです。
ちなみに新書サイズだとこんな感じです。
1冊目
頒布価格900円/本文88ページ/文字数36293字/フォントサイズ9pt(IPAex明朝)/1ページ22文字×14行×2段
2冊目
頒布価格700円/本文72ページ/文字数29929字/フォントサイズ9pt(IPAex明朝)/1ページ22文字×14行×2段
2冊目は章のはじめをドロップキャップにしています。楽しいですね。
これはどちらもフランス製本セット|印刷通販プリントキング
プリントキングさんのフランス製本セットです。フランス製本は楽しいです。
ということで、楽しいばっかり言ってますが、好きな形の本をつくるのは楽しいです。
あと、詳しいページ設定や、表紙のメイキング、二次創作をするときにふんわり思っていることなどの記事もあるのでよかったらどうぞ。
さて、7月の原稿(未着手)もがんばります。わーい。
原作設定と二次創作・書き手の決定権について
「設定を細かく拾って二次創作に反映できるか」「膨大な作業を無償でこなせるか」という処理能力は、愛とは関係ない
— 第三世界の長井を読んで (@toiso_) 2018年1月25日
こちらのツイートを先日見かけて本当にそうだなと思って次のように呟きました。
二次創作への原作設定の導入のバランスはほんと書き手の好みだから自分の好みに合うバランスの作品にであって楽しむのが一番
— ぱる/1031 (@syukusai) 2018年1月26日
「自分の好みに合うバランス」というのは話題として挙げられた「原作設定をどこまで細かく拾うか」もそうだし、同時に「原作設定をどう取捨選択するか」でもあります。
その取捨選択の範囲はさらに、「原作世界の時代背景や文化」「キャラの性格や思考過程の解釈」「原作内で直接描かれていないキャラ同士の関係性」などに細分化することもできます。
原作沿いではない現パロや他さまざまなパラレル・パロディを描く場合も、どのように原作設定をその新しい枠組みに翻訳していくかという問題が出てきます。
また、既にファンコミュニティ内に浸透しているパロディ設定がある場合、そこからどうオリジナリティを出していくか、出さないかという選択も、意識してにせよ無意識にせよ、くださなければなりません。
そもそもそうした設定について深くまで踏み入らず、ストーリーの力に重きを置きたい書き手もいます。思いついたストーリーがまずあり、そこにキャラクターを置いていく場合、設定はストーリーに合わせて柔軟に変更されていく場合があります。
ストーリーを重視するか、二次創作で付与された設定を重視するか、あるいはおおもとの原作設定を重視するか、それぞれのバランス感覚は書き手・読み手の数だけあるのでしょう。
ストーリーを面白いと思い、キャラクターの配役を楽しむ人もいれば、原作設定がいかに二次創作中の世界観に活かされているかにわくわくする人もいます。それぞれの要素の好みの配分は人それぞれです。
そもそも書き手にとって書く時間は有限です。原作設定との考証に時間をかけるか、より洗練された文章表現に磨きをかけたいと思うか、ストーリーの説得力を高めるために台詞・心情表現を徹底的にチェックしたいかは、好みと裁量に任される部分です。
一人称が「俺」「おれ」「オレ」のどれか、台詞と本文で「私」と「わたし」が使い分けられていないか、原作の本文では「言う」「云う」「いう」のどれが使われているか、「――」や「……」は表現上どのように処理されているか、そうした文章体裁的な部分にこだわって原作らしい雰囲気を追及する書き手もいれば、キャラにしゃべらせる台詞の息継ぎ、ことばの選び方、そのひとつひとつの響きを重視し、心情表現の比喩ひとつとってもキャラ自身の生い立ちや考え方、趣味嗜好から導き出そうと校正段階でウンウン悩む書き手もいます。
原作という大樹から、色々な形で原作を・キャラを愛するゆえに、個々人による二次創作という枝葉末節が無数に生れてくるのは楽しいことだなと思います。時間と労力を費やした結果、世界に一つだけの自分の好みを詰め込んだ作品が目の前に一つ出来上がるのです。自分の好きは自分が一番知っている。(でも驚きが好きだったりもするので、自分以外が書いた自分の好みドンピシャな作品に出会えた時の幸せは何にも代えがたい)
二次創作は原作を考察したり、もっと世界観に浸っていたいという気持ちが長じて「もしかしてこうだったら」「もしもこんな場合があったら」という発想に走ったときに辿り着くひとつの愛し方なのかなと思います。
好きな作品に・世界観に浸っているのって本当に楽しいです。ときどき理想の形にできたらもっと楽しい。自分以外の誰かが作っていたらわくわくするし、ときにはそれが好みにぴったりのバランスで描かれていて最高の気分になれたりするかもしれません。
自分以外の誰かの好みって、むしろ自分の好みと合っている方が珍しくて奇跡のようなものではないでしょうか。だって全然違う人間だし、二次創作ってほぼアマチュアの手によるものだし、マーケティングなんてしないし、基本的に書き手が自分自身のために書いてるものだから。
だから原作設定という共通認識が定規になるのはわかりますが、だからといってそれが正誤にはならないし、ましてや武器として振り上げられるものではないのでしょう。
共通認識からいかに料理していくかが二次創作なのかなと思います。美味しく料理して美味しく食べたい。もし自分以外にも美味しいと思ってくれるひとがいたら嬉しいことです。(どうかな、と思ったらこっそり味見して、好みでなければそっと立ち去ったらいいのです)
イベントで頒布するときのお金のやりとりだって、書き手が中身のクオリティを保証した商品を買っているわけではなく、あくまで書き手が自分のために書き上げたものを、印刷・イベント参加・頒布するにあたっての費用と手間を、頒布代として折半することで、分けてもらっているという建前があります。
冒頭で引用したツイートを見てから、ゆるゆるとそんなことを考えていました。
自分に無理なく、人に無理と迷惑をかけずに楽しめるのが一番です。
二次創作ってあくまで趣味ですからね。
着地点がふわふわになりましたが、書きたいことはこのくらいです。
ふわふわ。
#ぱるのお題箱 文庫本サイズの原稿の設定などについて
先日、お題箱から以下4点についてお尋ねいただいたので、お答えしたいと思います!
●文庫本サイズの原稿の設定
●表紙の作り方
●おすすめのフリー画像サイト
●加工ソフト
このうち、以下3点についてはさっとお答えできますので先に書いてしまいますね。
●表紙の作り方
いきなりリンクで申し訳ありませんが、以前書いたこちらの記事を参考にしていただければ! いつもだいたいこんな流れで作っています。
●おすすめのフリー画像サイト
上の表紙作成記事にも書いているんですが、Unsplashさんが大変おすすめです。
また、こまこまとした枠素材やライン素材のある素材集を一冊持っておくととても便利です。わたしが使ってるのはこちら!
●加工ソフト
Photoshop Elements 6.0です。パッケージ版でずっと使っています。廉価版じゃないPhotoshopを使ったらもっと便利なんだろうなあと思いつつ、なんだかんだ間に合っているのでありがたい。
というわけで、いざ
●文庫本サイズの原稿の設定
についてざっくり書いていきますね!
まずはワードで用紙サイズを111mm×154mmに設定します。
これはA6(105mm×148mm)に、天地内外タチキリ分3mmずつを足したサイズです。
続いて天と内外の余白を13mmに設定します。綴じ側(ノド)にプラスで5mm。地は16mm。これは市販の文庫などからお気に入りの余白を測って設定してみるといいです。
タチキリ分の3mmをそれぞれ加えるのを忘れずに!
本文フォントはIWAp明朝オールドPlusで9ポイントのフォントサイズにしています。
※上記フォントに課金するまではIPAex明朝を使っておりました
1ページは17行×35文字で組んでいます。これもお気に入りの文庫を参考にするといいかもです。(下記のスクショは6月の本のデータをひらいたものです。直し過ぎてファイル名がえらいこっちゃになってる)
ざっとこんなところでしょうか。好きな形が決まるまで、好きな版組の文庫本とにらめっこして作ると楽しいです。Wordユーザーからインデザユーザーにランクアップしたい! と夢見ながら今日もWord先生と格闘する日々です。
文庫サイズ同人誌はサイズ感もかわいいですし、本! という感じがしてすごくわくわくしますので、ぜひ楽しく作られてください!
ありがとうございました!
メイキング:Microsoft Word 2010で小説同人誌の表紙を作る(PDF出力)
#字書きによる表紙作成ワンドロ ではPhotoshop Elements 6.0で作成したのですが、そもそもが表紙作成のハードルを下げよう! という趣旨の企画であるということで、Microsoft Word 2010ではどこまでできるのか、試してみました。
ちなみにエレメンツのほうのメイキングはこちら。画像の作業を始める前の英題案出しや、写真素材の選び方についてのブレインストーミングもリンク先の記事の前半にあります。
まずは結果をご覧ください。
エレメンツ以外の有料部分であったロゴの円形素材と、タイトルの和文フォントは代用しています。
影の付きかたが違うのと、英字のぼかしが足りないのが差異かなと思います。
◎以下、Wordによるメイキングです。
Wordを開きます。
(1)用紙設定
断ち切りが3mm、背表紙が4mmの文庫サイズの表紙データを作るので、
幅220mm=3+105+4+105+3
(断ち切り+表紙+背表紙+裏表紙+断ち切り)
高さ154mm=3+148+3
(断ち切り+高さ+断ち切り)
の220mm×154mmの用紙設定にします。
(2)トンボ設定
続いて余白の上下左右を3mmの位置に設定します。このトンボ外は断ち落とされます。
(3)背表紙
挿入タブから図形の四角を作ります。
背表紙の色で塗りつぶし、枠線を線なしにします。図形ツールのサイズで背幅+1mm程度の幅、高さ154mmに設定し、配置を「左右中央揃え」「上下中央揃え」にします。
(3)写真素材
挿入タブから図を挿入します。写真素材は Unsplash | Free High-Resolution Photos さんから!
図ツールの書式から位置を左上に設定します。続いて、その他のレイアウトオプションから位置の基準を余白ではなくページに設定します。
トリミングで表1に収まるサイズに調整します。
図を背面へ移動します。
(5)写真の色味調整
図形でオレンジ色の四角を作ります。
図形の塗りつぶしからその他の色の設定をクリックし、透過性の数値を調整します。
今回は最終的に90%位にしました。
比較
(6)英字
挿入タブからテキストボックスを作ります。
描画ツール内で枠線と塗りつぶしを消し、文字列の方向を縦書きにします。
フォントサイズや行間、文字色を設定します。
ホームタブからフォントを開き、左下にある文字の効果を開きます。
文字の塗りつぶしで透過性を設定します。今回は60%程度。
文字が半透明になりました。
(7)タイトル
先ほどと同様テキストボックスを作り、背景の塗りつぶしと枠線を消し、文字サイズや色を調整して配置します。
ホームタブで影→外側→中央を選択し、文字に影を付けます。
影有り無しの比較。(「き」だけ影を外してみました)
(8)ロゴ・著者名・文庫名
タイトル同様にテキストボックスで作り、影を付けます。
(9)円形ロゴ
挿入タブから図形で円を作ります。
塗りつぶしを消し、枠線を白にします。
ロゴ内の文字が収まるサイズに調整。
コピペで円を増やします。
こちらは実線ではなく破線に設定します。
右上のサイズで数値をいじり、少し大きめに設定します。
完成した二重の縁でロゴ内の文字を囲みます。
(10)アクセント文字
タイトルのアクセント文字を暗い色で作ります。これもテキストボックス。
ホームタブの光彩から、その他の色の光彩で白を選択します。
さらに、光彩のオプションで透過性を調整します。
ぼんやりとした白い光彩付きの文字ができました。緑の丸を操作して傾きをつけます。
「が」と「く」も同じ要領で作ります。
(11)背表紙の文字
縦書きのテキストボックスでタイトル・著者名・文庫名を入れます。
(12)表4のパーツ
バーコード・ISBNと価格・あらすじ・文庫名をテキストボックスで入れます。
バーコードはC39HrP48DhTtというフリーフォントです。
あらすじと文庫名のあいだに挿入タブから図形の直線を入れます。二重線で破線を選択。
(13)PDF作成
名前を付けて保存でPDFを選択し、保存。
PDFデータができました!
完成です! やったー!
最後までご覧いただきありがとうございました。
とても丁寧な筆致で描かれた青春もので、あっと驚く結末が待っているミステリなので、こんな場で言うのもあれですが、ぜひ! 何卒! お読みいただければと思います。
ご質問・ご意見などありましたらツイッターアカウントに直接か、固定ツイートのお題箱からお知らせください。
今回のワンドロに関するツイートのツリーはこちらから繋がっています。
ご参考までに。
ジャンル:学生アリス
— ぱる (@syukusai) 2017年3月24日
CP:江アリ
あらすじ:「忘れてくれ」とだけ言い残して失踪した江神さんをアリスががんばって探す話
#字書きによる表紙作成ワンドロ pic.twitter.com/yloEkTmYkS
メイキング:字書きによる表紙作成ワンドロ
ツイッターでこちらのツイートに反応をもらえて嬉しかったのでメイキングを作りました。
ジャンル:学生アリス
— ぱる (@syukusai) 2017年3月24日
CP:江アリ
あらすじ:「忘れてくれ」とだけ言い残して失踪した江神さんをアリスががんばって探す話
#字書きによる表紙作成ワンドロ pic.twitter.com/yloEkTmYkS
箇条書き風味です。
(1)下準備
8時頃に企画について知る。
たのしそー! やるやる!!
— ぱる (@syukusai) 2017年3月24日
まず、9時のスタートまでどんな雰囲気の表紙にするか考えました。
タイトル「もう一度貴方の声が聞きたくて」が575だったのでもし77をつけるとしたら……と考えて、「鏡の中をじっと見つめる」はどうかなと思う(鏡越しに目が合う距離感が好きなので)。
背景素材として鏡の写真を使うことに決める。
副題として英題をつけたい派なので、英題を考える。
once againはどうかなと考えつつ、意訳が好きなのでforget me notを思いつく。
でも文意的に忘れない対象としてはmeではなくyouなのでその方向で英文を探る。
これをキーに検索しているうち、never forget youに行きつく。
「貴方をけして忘れない」……いい感じ!
単語が少ないので、大きめに入れて写真に敷くことに決める。
「もう一度貴方の声が聞きたくて」と「貴方をけして忘れない」の間を繋ぐ要素として、別離の際、相手に忘れてって言われたのかなと考える。あらすじに入れておくことにする。
お題のタイトルが長めの日本語なので、アクセントを付けられないか考える。
もう一度、
貴方の声が
聞きたくて
「もう一度、」と読点を付けて5文字×3行にしようかな、とか、ふだん自分が創作するときに「貴方」と漢字で書くことが少ないので、
もういちど
あなたの声が
ききたくて
のように「声」をアクセントにできないか考えつつ、タイトルの改変は企画の趣旨的にアウトかなと捨て案にする。
長めのタイトルだし575なので、折句的になにか拾えないか考える。
「もう一度」から拾いやすいのが「も」か「う」、「貴方の声が」からは「の」と「が」、「聞きたくて」からは「きたくて」と考えているうちに、「も」「が」「く」が拾えたので、文字配置を組むなかでアクセントにできそうだったら使うことにする。
もう一度貴方の声が聞きたくてもがくタイプのキャラが好きです!
と、ここまでで9時!
(2)素材集め
・背景素材(写真)
1月に出した本の表紙写真でもお世話になったフリーの写真サイト
でmirrorと検索し、良さげな写真を探す。
検索してみると車のサイドミラーの写真が多くてびびる。待ち合わせしてたキャラが車のサイドミラーに映り込む感じもまたロマン……と気に入ったものを一枚選ぶ。
・ロゴ素材
唯一課金した素材集から円型枠素材を使用。
・フォント
今回使ったものは既にインストールしてあったものですが、一応。
タイトル和文:IWAオールド明朝Plus(有料)
文庫名和文:はんなり明朝(フリーフォント)
サブタイトル英字:Copperplate Gothic Light(MS Office)
著者名英字:Arabic Typesetting(Windows)
ロゴ内英字:Kunstler Script(フリーフォント)
(3)制作
使用ソフトはPhotoshop Elements 6.0です。
105mm×148mmの文庫サイズで製作開始。まずは写真をよさげな位置で貼りつける。
続いて英字を敷く。若干トゲトゲしていて好きなのでCopperplate Gothic Lightを使用。何らかの筆記体のフォントにしようかと悩みつつ、3単語だし、と読みやすさを優先してゴシック体フォントに決める。
単語数が少ないので、敷き詰め感を出すなら縦かなと縦に。
サブタイトルなので可読性は低くてもOKだと思っている。
次にロゴ・著者名・○○文庫を入れる。(これはすみません、これまでに出した本のデータから拾ってきました)
続いてメインタイトルをのせる。IWA明朝オールドPlus、はんなり明朝、FGぽて明を載せてみて一番目がしっくりきたのでこれで。
敷いた英字の主張が激しいので40%くらいに透過する。
タイトルの文字がなんとなく詰まっている感じがするのでスペースを入れて調整する。
(エレメンツはテキストの両端揃え(頭末揃え?)ができないのでスペースが大活躍!)
ついでに英字やロゴの位置とタイトルの位置関係を気にする。タイトル1文字目の中心とロゴの中心を揃えたり、3文字目の中心と英字の2行目の中心を揃えたり、左右の余白を均等にしたりする。
タイトル・ロゴ・著者名・文庫名に薄く影を付けて背景に埋もれないようにする。
「もがく」を別レイヤーに取り出し文字色を変える。
「もがく」に角度を付けたあと、輪郭と光彩で白っぽいふわっとした枠をつけ、背景に埋もれないようにする。
英字が背景から浮いているので、ぼかし(ガウス)でぼかす
透過10%の塗りつぶし色レイヤーを写真の上に置き、写真の色味を調整。セピア寄りにする。
完成!
ジャンル:学生アリス
— ぱる (@syukusai) 2017年3月24日
CP:江アリ
あらすじ:「忘れてくれ」とだけ言い残して失踪した江神さんをアリスががんばって探す話
#字書きによる表紙作成ワンドロ pic.twitter.com/yloEkTmYkS
おまけ:レイヤーはこんな感じでした。
おまけ2:ふだんは祝祭文庫だけどワンドロなので名前を変えたいと思い、語感が似ていることだけを理由に潮騒文庫に。改めて見ると新潮文庫リスペクトにみえる(意図してませんでした)。
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最後までご覧いただきありがとうございました。
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3/26追記
同じようなものがWordでもできないかチャレンジしてみたら結構できました。
Wordすごい!
せっかくなので、Windows標準装備でどれだけ同じものが作れるかチャレンジしてみました。使用ソフトはWord 2010のみです #字書きによる表紙作成ワンドロ 機能を検索したりがあって所要時間は2時間です。(1枚目:一昨日のワンドロのもの、2枚目:今日Wordで作ったもの) pic.twitter.com/YXebSEaMvu
— ぱる (@syukusai) 2017年3月26日